期末を越えて株式を売却し、その後株主総会の議案と招集通知が送られ、議決権の行使に違和感(その時点では、当該株式を売却してしまっているので)を感じながらも、配当を受け取ると、何だか少し嬉しくなってしまう。そんな感覚をもつ個人投資家は多いのかも知れない。配当を受け取ることは、前期の利益の配分なので、多少手続き上の時間もかかろうが、最早自分は株式を売却しているのに、新しい取締役を選任したり、定款変更に賛成・反対したりすることに、多くの個人投資家は意味を見出せない。
そもそも株主とは誰のことを指すのか。難しい会社法(旧商法)の議論はさて置いて、株主とは株式を保有している人を指すが、株式が昨年 1 月から完全にペーパレスになり電子化してから、技術的にはリアル・タイムで株主を判明することが出来る。つまり、新たに株式を購入した時点から株主としての権利を行使することが可能な部分がある。取り上げたいのは、組織再編やMBO(経営陣による会社買取)・M&A事案に係る株主総会議案に対する株式買取請求権の行使だが、“今後の企業法制のあり方について”(法制審議会資料;経済産業省)によると、次のようなことが問題になっている。
・例えばMBOの場合、株価が継続して下落傾向にあった会社がMBOでTOB(公開買付)を実行し、その後のスクイーズ・アウトで残った株主に現金を渡し100%子会社化する場合、TOB価格と同一の価格で現金化する場合が多い。この時、TOBとスクイーズ・アウトの間に、新たに株式を取得し株主となったものが、スクイーズ・アウトの現金化価格を不満とし、株式買取請求権を行使し、裁判所に対して価格決定請求の裁判を起こすケースがある。新たな株主にとって、経済的不利益は無いはずなのだが、元々のTOB価格(TOB時点では、このものは株主ではない)が低すぎるとして株主買取請求権を使うのだ。少しややこしいのが、長い間株主で経済的不利益を被っている株主も同様の権利を行使する場合がある。一方はMBO前からの株主、一方はMBOの為のTOB後の株主ということになるが、現在は同様の権利内容となっている。
・上記の株式買取請求権の買付価格が裁判所で決定されて実際に株主に支払うまでの間、会社側は買取請求を起こした株主に対して法定利率の6%を支払うが、この事が実質的資金の高金利運用になり、買取請求を誘発する状況にある。
・また買取請求制度が別の目的で利用されるケースとして、本来目的であるはずの総会議案等への反対ではなく、纏まって株式を保有する特定の株主から、会社が株式を時価より高く買取る目的で利用したものが複数あった。通常、会社が特定の株主より自社株式を買い取る場合、時価若しくは数%のディスカウント価格でToSTNeT等を使って買い取るが、この様なケースで時価と比較して相当高い価格であった。(この部分の記載内容は筆者追加)
いったい権利を行使すべき株主とは誰なのか。権利の行使目的や権利内容によって異なるべきではないだろうか。その時点で経済的影響を受けるものが、その議案及び議案に係る権利行使の対象となる株主で良いのではないだろうか。紙の株券の時には、物理的制約があって便宜的に決めたことが、完全ペーパレス化によってリアル・タイムで株主を特定することが可能になったので、決済制度の進歩に合わせた株主の権利行使の仕組みが待たれる。