長い間、上場企業のファイナンスに関与する仕事をしているが、上場企業としての最終局面にも随分立ち会ってきた。そんな時、先ずある話は第三者割当増資の話で、果たして適切にアドバイス出来ていたか個人的には多少の悔いも残る。但し大体の場合は、幹事証券であっても関与せずという方針だった。殆どの場合、過小資本に陥っているので早急な資本(資金)調達が必要なのだが、そんな企業側の切迫感の中で、資本市場のルール遵守を説くためには、長年の信頼関係以上のものが必要だったかもしれない。

上場企業も8月末時点で3680社あるが、これだけあれば様々な資本政策があって当然だ。但し“不公正ファイナンス”は排除されなければならない。“不公正ファイナンス”は証券取引等監視委員会(SESC)の命名だが、不適切な第三者割当(株式、新株予約権、CB)を使って行う下記の行為を指している。
▶ 既存株主の権利を著しく希薄化するもの
▶ 割当先が正体不明のファンドであったり、反社会的勢力の関与が懸念されるものも
▶ 金融商品取引法第158条違反の「偽計」を構成するものも
▶ 相場操縦、風説の流布、インサイダー取引、粉飾なども含む複雑・悪質な複合事案
勿論これ等の行為は、上場会社サイドが意図しなくとも、第三者割当先の出資者側の意図で、著しく既存株主を不利な状況に陥らせたり、株価操縦行為に利用される場合があった。その為、開示省令や取引所規則の改正を行い、事前の財務局相談や取引所上場部相談で不適切な第三者割当を排除しようとしている。

昨年8月から実施されている第三者割当に係る上場ルールの変更では、
○第三者割当に関して、10営業日前までに東証の上場部へ事前相談
○希薄化率25%以上または支配株主の異動を伴う第三者割当の場合は、独立した機関の意見書か株主総会決議
○出資金の根拠となる財産を確認、増資金額の根拠や資金使途の具体的内容、割当の内容が特に有利でないことの監査役等の意見書などを公表すること
などが求められている。

この結果、この1年間で東証の上場部によせられた事前相談の中で、不適切な第三者割当として示されたものには、以下の様な事例がある。(東京証券取引所自主規制法人“上場管理業務について 平成22年9月”より事例抜粋)
●調達資金の資金使途で、運転資金や借入金返済とした場合、資金繰り表や返済計画表を大幅に超えているケースや、新規事業投資の場合、事業効果に関する資料がないケース。
●払込金額について、出資者の意向に沿うため可能な限り安く設定しようとするケース。例えば“第三者割当増資の取扱いに関する指針”(日本証券業協会ルール)の時価90%基準を、株価を低く抑えるのに都合のいい期間で採用したケース。第三者割当の決議日前日を基準としない合理的説明が必要。
●ゴルフ場を現物出資の形で譲り受け、その対価として株式を第三者割当で発行する場合、ゴルフ場の資産評価に関する検討がされていないケース。
●ファンドが割当先となる場合、運用方針や業務執行組合員の経歴等そのファンドの属性の確認が必要だが、アレンジャーに頼って会社として精査していないケース。ファンドの場合、10%以上の出資者についての記載が必要で、その該当者が更なる上部ファンドの場合はその概況の記載内容を取引所に提出。
●ファンドからの払込みに要する資産の確認(出資金相当のお金があるかということ)について、仲介のコンサルタント任せで実質行われていないケース。
●割当先のファンド自らが、増資先上場会社株式の売買を行っていたので第三者割当を中止したケース。
●第三者割当では資金使途について詳細な開示が必要になるので、これを避けるため、一旦借入をしておいて、その借入をデット・エクイティ・スワップのかたちで株式に換える上場ルール潜脱を意図したケース。
●小規模保有の株主を排除する目的で、新株予約権を株主割当し、別途手数料名目で費用を徴収しようとしたケース。(事前相談の結果、この株主割当は中止)

以上に対する率直な感想は、事前相談段階で、東証は第三者割当の内容に相当入り込んでいるというものだ。本来なら、真っ先に相談を受けるべき主幹事証券の助言業務の様にも思うのだが、自主規制機関に頼らなければならないように、時代が変わっているのだろうか。